マゴットセラピーの株式会社バイオセラピーメディカル
エビデンス

文献レビュー

マゴットセラピーに関する主要な文献に対する簡単なレビューです。文献執筆や学会報告の際にお役立て下さい。

※ 論文の掲載は年代順です。

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 治療手技 主要文献レビュー                        (最終更新2012年6月22日)
2005 Netherlands Maggot debridement therapy: free-range or contained? An in-vivo study
サマリー日本語訳

<目的>マゴット療法を行なう際に直接法またはバッグ法どちらが創傷治癒効果に優れているかを検証した。<方法>64人の患者における壊疽や壊死組織を有する慢性創傷69創に対する臨床実験。対象患者に対して直接法またはバッグ法にてマゴット療法を行なった。ドレッシング法は入手のしやすさ、ドレッシングのしやすさ、医師の好みなどによりどちらかが選択された。<結果>バッグ法よりも直接法において有意に優れた結果が得られた。直接法においてはバッグ法に比べて1回に使用するマゴットの数も、治療全体に使用するマゴットの数も有意に少なかった。<結論>バッグに封入したマゴットを使用した場合、治療効果が落ちてしまうというin vitroの報告が、臨床においても裏付けられた。

訳者レビュー

バッグ法と直接法を比較した前向きコホート研究。直接法の方が治療結果が良く、治療回数と使用するマゴットの数も少なく済むとの結果が得られている。
治療に使われたバッグの素材や、その中に封入するマゴットの匹数が統一されていないのが残念だが、おそらく他の報告にもある通りバッグ法の方がデブリ効果に劣っていることは確かなのだろう。
バッグ法を用いる大きな利点は手技を簡略化し脱走のリスクもほぼ0にすることができることである。よって本来であれば、この利点、つまり手技時間と脱走の有無も評価項目に入れ、バッグ法と直接法を比較しないとフェアでないであろう。

2002 UK The effect of containment on the properties of sterile maggots
サマリー日本語訳

メッシュバッグに封入されたヒロズキンバエ幼虫の摂食機序と成長速度を研究室レベルで検証したところ、バッグに封入されたものより、直置きされたものの方が有意に速く成長し生存率も優れていた。また別の実験ではバッグ内の幼虫は固形食に直接コンタクトしなくても、メッシュを通過してくる創浸出液のみで成長することが証明された。この結果は臨床での経験とも矛盾せず、バッグの中に封入された幼虫は審美的には優れているかもしれないが、殺菌効果や壊死組織を除去する効果は大きく減弱されることになる。

訳者レビュー

バッグ法と直接法のデブリ効果の違いを実験室レベルで検証した報告。以下が主な2つの主張である。
「マゴットの摂食は蛋白融解酵素による壊死組織の融解作用によって行われると一般的には考えられているが、小さな固形物を直接摂取することもある。またマゴットは創面を引っ掻くことによって分泌液の浸透を促進したりもしている。これらの効果はマゴットと創面が直接コンタクトすることによって得られるもので、バッグ内に封入されたマゴットではこれらの効果を発揮することができない。事実バッグ内のマゴットは、直接創面に置かれたものと比べて体重増加(≒デブリ量)が約1/2にになってしまう。」
「バッグ内のマゴットは患部からの浸出液や血液だけでもある程度は成長することができる。このことから治療後にバッグ内のマゴットが成長していたからと言って、患部のデブリが必ずしも進んでいるとは言うことができない。」
バッグ法では効果が減弱することは認識していたが、この報告を読むと、予想以上のデメリットがあるように思われてくる。またマゴットが患部からの浸出液だけで成長し得ることも知らなかった。
バッグ法は「扱いやすい」、「逃げない」、「マゴットが直接見えない」、「疼痛軽減」、「治療の途中でも創面の観察/処置が可能」などのメリットがあるが、その効果にも限界があることを認識したうえで適応症例を選んでいく必要があると再認識させられた。

2002 Austria The biobag - a new device for the application of medicinal maggots
サマリー日本語訳

(サマリーがないため、論文の主要部分を和訳)
生きたマゴットを使用する不快感を減らし、より受け入れやすい治療としてその使用を促進するために、バイオバッグの使用を導入した。薄さ0.5mmのポリビニール製のハイドロスポンジでバッグを作り、その中に生きたマゴットと立方体のスペーサーを入れ熱溶着でバッグを閉じる。創からの浸出液と融解された壊死組織は多孔性の素材を通してマゴットに到達しそのエサとなる。同時にマゴットの分泌液がバイオバッグを通して患部に到達し、デブリを進め、創傷治癒を促進し、感染を制御してくれる。マゴットはバッグの外へ逃げ出すことができないため、病院内の衛生も保つことができる。マゴットが直接目に触れることがないため、患者にとっても医療従事者にとっても治療を受け入れやすくなる。更にバッグを一時的に取り外すことができるため、治療中でも感染を有する患部の処置を行うことができる。

訳者レビュー

バッグ法が紹介された初めての報告。
マゴット療法はある程完成された治療で”イノベーション”が少ないと言われている治療法である。その中でこのバイオバッグの開発は唯一のイノベーションであると言うこともでき、その適応を大きく広げたと言うことができる。

1997 USA A new dressing design for use with maggot therapy
サマリー日本語訳

マゴット療法は1930年代より軟部組織に生じた創傷の治療として行われてきた。このような歴史があるにもかかわらず、最適なドレッシング材の選択には未だに問題がつきまとう。マゴット療法を開始するにあたって我々は以下の用件を満たすドレッシング法を開発する必要があった。(1)マゴットの脱走を防ぐことができる(2)マゴットが呼吸するための通気性を保つ(3)浸出液のドレナージを促進する(4)患部のチェックが可能(5)治療中に手間がかからない(6)安価である。最適な方法として2層からなるケージ型のドレッシング法が開発された。創周囲の正常皮膚にハイドロコロイドシートを貼り、その上を目の細かいシフォンやナイロンメッシュで覆う方法である。融解された壊死組織はメッシュを通してその上のガーゼに吸収され、汚染されたガーゼは定期的に取り替えることができる。この方法を用いれば既に手元にある材料を用いてマゴットを封じ込めておくことができる。

訳者レビュー

最適なドレッシング法を紹介した報告で、囲い込み法が理想的な方法として紹介されている。ドレッシング材同士の接着を強固にするために、皮膚用接着剤の使用が勧められている。この方法は現在も米国で行われている方法であるが、きちんとしたテープ固定を行えば、接着剤まで使う必要はないように思う。そもそも皮膚用接着剤を常備している病院などあまりない。また手技時間が長くなるのもこの囲い込み法の欠点であり、事実平均所要時間は30〜45分と記載がある。
囲い込み法が使いにくい患部に対するオプションとしてストッキング法も紹介されている。訳者はこのストッキング法の方が簡便で脱走のリスクがない方法として、囲い込み法よりも優れているのではないかと考えている。


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